恋路ヶ浜LOVEストーリー

伊良湖岬の先端にある雄大な浜辺には、万葉の時代から恋にまつわる様々な伝説があった。
その浜はいつしか「恋路ヶ浜」と呼ばれるようになった。
現代の恋路ヶ浜に舞い降りた、ある男女の縁結びの物語・・・

第2話「お見合い番組 ~ Shunpei ~」

畑Happinessあつみでの暮らしには、思いのほかすぐに慣れた。
そこには3頭の豚と2頭のやぎ、100羽ほどのにわとりがいて、田んぼで米を、畑で季節の野菜を育てている。
ぼくは、施設長のヒロさんから色んなことを教わり、色んな仕事をした。
施設では、循環と対等という理念を大切にしている。
「百姓」という言葉に誇りを持つ人の気持ちもわかった。まさに百以上に及ぶ様々な作業。

とはいえ、何か苦行を強いられるような感覚はなかった。土の上で身体を動かし、汗を流して仕事をするのは、たいへんでも気持ちのいいものだ。

おもしろい出会いもあった。
Happinessあつみに出入りしている土建屋さんの陽三さんと知り合い、自然に関する様々なことを教えてもらった。
海でなまこや岩ガキをとったり、浜ぼうふうという植物の食べ方を教わったり、わらびや筍の季節には山に連れて行ってもらった。
施設にファームステイに来た子供たちを連れて、カブトムシがたくさん集まるスポットを教えてくれたのも陽三さんだ。

ぼくは日に焼け、どんどん健康になっていった。

最初の研修期間は5ヶ月の予定だったが、延長を重ねて2年経った頃、
属していた若手農家の勉強会で、あるイベントの誘いを受けた。
民放で時折放送されるお見合い番組・・・
嫁不足の農村や漁村で行われているイメージで、まさか田原市に来るとは思わなかった。
この地域は田舎だけれど、寂しげな過疎地ではなく、農業漁業以外に工場地帯もあり、様々な産業のバランスがよい。
何より観光地でもある渥美半島は、風景も、住んでいる人たちも明るい印象だ。
ぼくは親しい先輩に強く言われて番組に参加することになったけれど、
内心、「これに出たら、一生ここに住むことになるのかなあ」と思っていた。

男性の参加者は41人。
番組のホームページに載せた全員の顔写真とプロフィールを見て応募してきた女性は、
800人ほどだったそう。
そこから各地の説明会に実際にやってきた250人分の自己紹介の動画を、ぼくたちは市役所のホールで見ることになった。
スタッフに言われて250人の中から5人、気に入った相手を選んで紙に書く。
一人一人の映像が素早く流れていくので、会場はみんな真剣だった。

7月27日。いざ本番。

サンテパルクたはら男性陣の投票結果をもとに、田原市でのお見合い本番にやってくる女性は114人!
菜の花をあしらったのぼりがたくさん立てられた「サンテパルクたはら」でぼくたちが待っていると、4台のバスがやって来た。
大勢の初めて会う女性たちがぞろぞろとバスを降りてくる。

自分が置かれている状況に、笑うしかなかった。

日原いずみ

日原いずみ

1973年2月4日、愛知県渥美町(現 田原市)生まれ
早稲田大学卒業後、テレビ番組のAD、現代美術作家助手などを経て、
処女小説が講談社「群像」新人文学賞で最終候補作となったのを機に執筆活動を中心としている。
著書に『チョコレート色のほおずき』(藤村昌代名義:作品社)、『赤土に咲くダリア』(ポプラ社)がある。

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