恋路ヶ浜LOVEストーリー

伊良湖岬の先端にある雄大な浜辺には、万葉の時代から恋にまつわる様々な伝説があった。
その浜はいつしか「恋路ヶ浜」と呼ばれるようになった。
現代の恋路ヶ浜に舞い降りた、ある男女の縁結びの物語・・・

第5話「告白 ~ Shunpei ~」

サンテパルクの告白会場に着くと、会場の外に、カップル成立用のテントと椅子がいっぱい並んでいた。
事前のアンケートでカップルになった人たちが、たくさんいることがわかる。
昨日も今日も時間が短くて、女の子との会話を深めるほどには至らず、
自分の気持ちがうまく乗っからないまま告白の時を迎えた。
ぼくは、昨日の時点で2人に絞り、さきほどのフリータイムでその2人と気持ちの上では重点的に話し、
告白する相手を決めていた。

柴田志寿香さん。

にこやかでかわいらしくて、芯の強そうな女性。立っているだけで心の健やかさが伝わってくる。
最初に顔を合わせた時からなぜかとても気になり、複数の女性が来てくれても、柴田さんを目で追うことが増えていった。
彼女がいちばん現実として、自分と一緒にここでやっていってくれそうに思える。
ぼくが駆け寄ると、柴田さんは驚いた表情を見せた。
「この二日間で、柴田さんのことをもっと知りたいと思いました。
これからたいへんかと思いますけど、二人で未来をつくっていきましょう」
その場で考えたけれど、正直な気持ちだ。
メロンメロンを差し出すと、柴田さんは照れくさそうに受けとってくれた。
ホッとした。

予想通り成立したカップルは多く、ぼくたちはテントの一角に座り、
まるで同じ戦を経た同志のように緊張から解放された。
抜け駆け防止で、宿泊先もトイレも、男女が厳密に隔離されて過ごしてきたけれど、
カメラからも解放され、ようやく本当の笑顔で話すことができる。
「おつかれさまでした」
「おつかれさまでした」
どちらからともなく言って、二人で笑った。

カップル成立後はお互いの連絡先を交換し、でも意外に時間も短く、あっという間にお別れとなった。
うれしい気持ちと、寂しい気持ちと、これから何かが始まっていくワクワクした気持ちを抱えて、
バスに乗る彼女を見送った。

日原いずみ

日原いずみ

1973年2月4日、愛知県渥美町(現 田原市)生まれ
早稲田大学卒業後、テレビ番組のAD、現代美術作家助手などを経て、
処女小説が講談社「群像」新人文学賞で最終候補作となったのを機に執筆活動を中心としている。
著書に『チョコレート色のほおずき』(藤村昌代名義:作品社)、『赤土に咲くダリア』(ポプラ社)がある。

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