恋路ヶ浜LOVEストーリー

伊良湖岬の先端にある雄大な浜辺には、万葉の時代から恋にまつわる様々な伝説があった。
その浜はいつしか「恋路ヶ浜」と呼ばれるようになった。
現代の恋路ヶ浜に舞い降りた、ある男女の縁結びの物語・・・

第11話「夜景 ~ Shunpei ~」

山をゆっくり歩いて、10分ほど下ったところに愛染明王の像はあった。

愛染明王<手にハートを射抜く弓矢を持っていることから、縁結びや恋愛成就にご利益があることで知られています>

そばにかけてある絵馬には、恋愛ばかりではなく、合格祈願や商売繁盛など、いろんな願い事が書いてある。
前回伊良湖で鍵をかけたばかりなので、今回は絵馬を書かなかったけれど、お賽銭を入れて、二人でお参りした。

少し紅葉が始まった山の自然を楽しみながら再び山頂に戻ると、開けた視界に夕焼けが飛び込んできた。
展望台に上り、海の向こうに沈んでいく夕陽を眺める。
空の色が、青、黄色、茜色と三段階に分かれていくような、入り混じっていくような変化を見せ、
二人で話をしながらうっとりと眺めていた。
話をしていると時間があっという間に過ぎ、表に出ると、辺りはすっかり暗かった。

蓄光石が埋め込んであるスロープがキラキラ光っている。

蓄光石のスロープ空中回廊のようなスロープを手をつないでゆっくり降りながら、
幻想的な気持ちになる。
「星屑の上を歩いてるみたいやなあ」と志寿香が言い、
ぼくも「天の川みたいだね」とこたえた。
振り返るとライトアップされた展望台が青い光を放っている。

蔵王山から見える渥美半島の夜景は、思いのほか美しかった。
市街地の灯り、工場地帯の灯り、海に浮かぶ船の灯り、
半島の名物とも言える電照菊の灯りも見える。
「田舎やけど思ったより明るいねんなあ」
彼女の言葉で気がついた。
渥美半島の夜景渥美半島の夜景「あそこはもう海だし、山も緑もあって空気がきれいだから、
たくさんの灯りじゃなくても際立って感じられるんだろうね」
自然のおかげで人工的な光の美しさが増す。

大都会とはまた違う、宝石のようなきらめきだった。

日原いずみ

日原いずみ

1973年2月4日、愛知県渥美町(現 田原市)生まれ
早稲田大学卒業後、テレビ番組のAD、現代美術作家助手などを経て、
処女小説が講談社「群像」新人文学賞で最終候補作となったのを機に執筆活動を中心としている。
著書に『チョコレート色のほおずき』(藤村昌代名義:作品社)、『赤土に咲くダリア』(ポプラ社)がある。

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