恋路ヶ浜LOVEストーリー

伊良湖岬の先端にある雄大な浜辺には、万葉の時代から恋にまつわる様々な伝説があった。
その浜はいつしか「恋路ヶ浜」と呼ばれるようになった。
現代の恋路ヶ浜に舞い降りた、ある男女の縁結びの物語・・・

第12話「日出の石門 ~ Shizuka ~」

番組での訪問と合わせると3回目の田原市。
初日は峻平くんが蔵王山に連れて行ってくれて、
二日目は朝からまた農作業を手伝い、午後に日出の石門に行くことになった。
 
広い駐車場から平らな道を辿って石門の方へ行くこともできるけれど、
峻平くんは、地元の人に連れてきてもらったという丘から下りていく方法で案内してくれた。
駐車スペースに車を停めて、道路を渡り、坂道を少し下りたら、最初のビューポイント。
目の前が開けた場所から、右手に太平洋、砂浜を挟んで左手に山、陸地が見渡せる。

海岸線

再び下ると広場のようになっている場所があり、眼前に雄大な海が広がった。
「きれいやなぁ。めっちゃ気持ちいい!」
海と同じ目線で眺めるのもいいけれど、こうして上から眺めると、地球の丸さがわかるような気がする。
「あれが日出の石門。向こう側が沖の石門、手前が岸の石門だって」
石門の方へ下りて行く前に、広場にある「椰子の実」の歌碑を見た。
私も大阪にいる間に渥美半島のことを少しずつ調べるようになっていた。
次に峻平くんに会ったら行ってみたい場所などを携帯で検索する中で、この「椰子の実」の歌碑も出てきた。

<名も知らぬ 遠き島より 流れよる 椰子の実ひとつ……>

「島崎藤村が伊良湖に来たんじゃなくて、滞在したことのある柳田國男から聞いて書いた詩なんやってな」
「昔は交通の便も悪いのに、けっこう色んな人がここまで来てるよね」
「それだけ風光明媚で知られてたってことやろうなあ」
 
右側に太平洋と岩場という迫力のある景色を見ながら、
峻平くんの後をついて草木が生い茂る階段を下りていく。
木漏れ日が差し込む山の小道という風情で、小さな冒険をしているよう。
緑の葉っぱにも色んな種類やグラデーションがあり、足元で小さな花も咲いている。
目に触れるだけでうれしい。
木々のトンネルを抜けるようにして浜辺に着くと、
足元には砂浜ではなく細かい石粒のような地面が広がり、目の前に巨大な岩がバーンと現れた。

日出の石門

ビルほどもありそうなその岩には人が通り抜けられそうな穴があり、
陸地から向こう側の海が覗いて見える。
私たちは岩をよじ登り、穴の間近まで行ってみた。
岩に波が打ち寄せ、時々飛沫が飛んでくる。風が冷たい。
「すごい迫力だね」
恋路ヶ浜とはまた違う、海や巨大な岩のエネルギーを感じる。
海の表情にも、自然の表情にもいろいろあるものだ。

平らな浜辺に戻り、水平線を眺めながら、二人で手をつないで歩いた。
「大阪や東京の街の中とは全然違う空気がここにはあるなあ」
「うん、ぼくもそう思う」
押し寄せる波の音を聞きながら、私たちは改めて、不思議な縁に導かれて今ここにいるのだと思った。

日原いずみ

日原いずみ

1973年2月4日、愛知県渥美町(現 田原市)生まれ
早稲田大学卒業後、テレビ番組のAD、現代美術作家助手などを経て、
処女小説が講談社「群像」新人文学賞で最終候補作となったのを機に執筆活動を中心としている。
著書に『チョコレート色のほおずき』(藤村昌代名義:作品社)、『赤土に咲くダリア』(ポプラ社)がある。

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