朝起きて、モロヘイヤやオクラやきゅうりをとりに行き、それを使ってみんなで朝食を作った。
どれも新鮮でピンピンしていて、まるで野菜のお刺身。
手作り味噌のお味噌汁と、みんなで作ったお米。細胞が元気になっていくような朝ご飯。
午前中はまた畑仕事を手伝い、午後からはHappinessあつみの周辺でダラダラと過ごし、
暑い時間が過ぎてから、陽三さんに言われた鐘やクローバーのスポットに行ってみることにした。
峻平くんが調べた情報によると、最初は『幸せの鐘』がかけてあったけれど、
田原市と友好都市の関係にある長野県の宮田村の『永遠の鐘』と交換会が行われ、今の鐘におさまっているらしい。
昨日、陽三さんが名前を迷ったのにはそれなりの背景があったのだ。
「永遠の幸せを願った、とわの鐘だって!」と峻平くんが笑った。
車に乗り、今日は太平洋側から恋路ヶ浜を目指す。
峻平くんが初めて東京からやってきた時にたどった道。
日出の石門を左手に見ながらぐーんと坂道を上り、海と伊良湖岬の先端が見下ろせた時には感動した。
東京出身の峻平くんが、ここに住み続けているわけが少しわかった気がする。
昨日と同じ駐車場に車を停めて、永遠の鐘へ・・・
門のようなモニュメントにある鐘を二人で鳴らし、海の向こうを眺める。
ロマンチックを絵に描いたような光景。
階段を降り、すぐ近くの鍵がいくつもかけてあるスポットに行ってみる。
そこにはクローバーが植えてあり、「四つ葉のクローバー発祥の地」という看板が添えてあった。
峻平くんと一緒に探してみると、本当にすぐに四つ葉のクローバーが見つかった。
看板にある通り、初めて見る五つ葉もある。
「あった!」「すごいなあ!」
四つ葉をひとつ、大切に摘み取り、私たちも鍵をかけようと、売店に行く。
歩きながらクローバーを眺め、
「四つ葉が縁起いいのは知ってたけど、葉っぱの形や中の模様が、ハート型に見えるのもあるね」
「ほんまや!聞いたことあるけど、『clover』の綴りの中には『love』が含まれてるんやんなぁ」
などなど盛り上がる。
昨日も会った峻平くんの友達に「また来たの?」と笑われながら、鍵を購入しつつ、
峻平くんが「伊良湖って四つ葉のクローバー発祥の地なんですか?」と質問した。
「そうらしいよ。この地域に住んどって、クローバーを研究しとる人がおるだけど、
その人が渥美半島の300ヶ所くらいの四つ葉のクローバーの株を集めて、
同じ条件で育てたらしいんだよ。
その中で、年間通じて四つ葉や五つ葉をつけて、成長を続けたのはたった一ヶ所の土のものだけで、
それが伊良湖の宮下だったんだって」
「宮下ってどこですか?」
「旧伊良湖神社のあったところ」
「すごいじゃないですか。その話って、本物のパワースポットですよね」
「俺も初めて聞いた時、驚いたよ。本当に伊良湖には土地の力があるんだと思うよ」
背景を聞くと、私が今持っているクローバーも一層すごいものに思えてくる。
私はバッグから手帳を取り出し、大切に挟んだ。
「願いのかなう鍵」からリニューアルされたという「しあわせの鍵」には、
丸い木製のプレートが付いていて、
永遠の鐘やクローバーのイラストが描かれている。
マジックを借りて、私たちはお互いの名前を書いた。
「好きだ」とか「つき合おう」とか言って始まった関係ではないのに、
恋人の儀式のようなことを一緒にしているのが不思議だった。
何か言葉を添えるほどの関係性はまだなく、ただただ七夕の短冊のように、
願いを込めるような気持ち……
その鍵を二人でかけることで、恋人気分が増していった。
帰りは夕陽がきれいだという、風力発電用の風車がたくさん並んでいる通りを走った。
初めて間近で見る風車は想像以上に大きくて、アニメ映画で見る未来都市のようだ。
海にも、風車の壁面にも茜色の夕陽が映り込み、
懐かしいような新しいような不思議な光景をつくり出していた。