山をゆっくり歩いて、10分ほど下ったところに愛染明王の像はあった。
<手にハートを射抜く弓矢を持っていることから、縁結びや恋愛成就にご利益があることで知られています>
そばにかけてある絵馬には、恋愛ばかりではなく、合格祈願や商売繁盛など、いろんな願い事が書いてある。
前回伊良湖で鍵をかけたばかりなので、今回は絵馬を書かなかったけれど、お賽銭を入れて、二人でお参りした。
少し紅葉が始まった山の自然を楽しみながら再び山頂に戻ると、開けた視界に夕焼けが飛び込んできた。
展望台に上り、海の向こうに沈んでいく夕陽を眺める。
空の色が、青、黄色、茜色と三段階に分かれていくような、入り混じっていくような変化を見せ、
二人で話をしながらうっとりと眺めていた。
話をしていると時間があっという間に過ぎ、表に出ると、辺りはすっかり暗かった。
蓄光石が埋め込んであるスロープがキラキラ光っている。
空中回廊のようなスロープを手をつないでゆっくり降りながら、
幻想的な気持ちになる。
「星屑の上を歩いてるみたいやなあ」と志寿香が言い、
ぼくも「天の川みたいだね」とこたえた。
振り返るとライトアップされた展望台が青い光を放っている。
蔵王山から見える渥美半島の夜景は、思いのほか美しかった。
市街地の灯り、工場地帯の灯り、海に浮かぶ船の灯り、
半島の名物とも言える電照菊の灯りも見える。
「田舎やけど思ったより明るいねんなあ」
彼女の言葉で気がついた。
「あそこはもう海だし、山も緑もあって空気がきれいだから、
たくさんの灯りじゃなくても際立って感じられるんだろうね」
自然のおかげで人工的な光の美しさが増す。
大都会とはまた違う、宝石のようなきらめきだった。