恋路ヶ浜LOVEストーリー

伊良湖岬の先端にある雄大な浜辺には、万葉の時代から恋にまつわる様々な伝説があった。
その浜はいつしか「恋路ヶ浜」と呼ばれるようになった。
現代の恋路ヶ浜に舞い降りた、ある男女の縁結びの物語・・・

第21話「新生活 ~ Shizuka ~」

無事に入籍し、新しい生活にも慣れ始めた。
峻平くんと一緒に過ごせることが本当にうれしい。
彼が仕事をしている畑や温室を見せてもらう中で、バラの温室は初めてだったので興味深かった。
近代的な設備で管理されていることや、バラにも想像以上に多くの種類があることに驚く。
その帰りには、お友達のマムの温室にも寄らせてもらった。マムも色とりどりの形や種類があり、とても華やかだった。

バラマム

愛知県は花の生産量が日本一で、中でも田原市の花は全国上位の品質や生産量のものもあり、
イベントの花束や、スポーツの国際大会のビクトリーブーケなどにも使われているらしい。

8月になり、渥美半島はまさに海水浴シーズンで、観光客もいっぱい。
1年前のお見合い番組で知り合った友達が、同窓会的に伊良湖の休暇村に集い、盛り上がった。
あの時カップルになったままつき合ってる人たちもいれば、別れた人たちなど色々ある。
みんな、峻平くんと私の結婚を祝福してくれてうれしかった。

おもしろい展開で、発足したばかりの伊良湖岬観光協議会の発案で、
峻平くんと私をモデルとしたラブストーリーが書かれることになったり、
そのプロジェクト主催で私たちの結婚式を公開イベントとしてやってくれることになり、
そのための準備も始まり出した。

田原へ越してきていちばん驚いたのは、ケンケンの変化だ。
ケンケンは、保護犬の活動をしている人から譲り受けた犬で、生まれた時から愛情に恵まれて育った犬とは違い、
人間への不信感も強く、過剰にビクビクしてしまうところがある。
大阪に住んでいる時に散歩に出かけても、いつも脅えているようで、なんとか気持ちをやわらげてあげたいと思っても、なかなか難しかった。
それが、ある時、恋路ヶ浜へ連れて行ったら、まるで何かを思い出したかのように、すごく元気に砂浜を走り回ったのだ。

ケンケン

いつもはお尻にしっぽをしまっているような状態なのに、のびのびとしっぽを振り、
毛並みもピンとして、はしゃいで走りまくり、私たちのところへ戻ってくる時の顔は
明らかに笑っていた。
家の中で飼っている時のケンケンと全く別人(別犬)のようで、峻平くんも驚いていた。
これが、大自然の力なのかと思った。
波の音に反応したのか潮のにおいなのか、浜辺の空気感なのか、
周囲の自然と同化するかのようにケンケンが躍動している。
私はケンケンのその姿を見ただけでも、田原に来てよかったーと思った。

10月、プロジェクトの関係で、峻平くんと二人で結婚衣装を着て前撮りが行われた。
私たちの画像を、新しいホームページや、カップル向けの観光スポットを紹介するパンフレットでも使う予定らしい。
お天気にも恵まれ、恋路ヶ浜や灯台などの海辺で撮影。
外でドレスを着てというのは恥ずかしさもあったけれど、開放的で気持ちよかった。

前撮り(伊良湖岬灯台)前撮り前撮り(恋路ヶ浜)

日原いずみ

日原いずみ

1973年2月4日、愛知県渥美町(現 田原市)生まれ
早稲田大学卒業後、テレビ番組のAD、現代美術作家助手などを経て、
処女小説が講談社「群像」新人文学賞で最終候補作となったのを機に執筆活動を中心としている。
著書に『チョコレート色のほおずき』(藤村昌代名義:作品社)、『赤土に咲くダリア』(ポプラ社)がある。

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